治らない治療 ~話したくない患者さん・聞き出したい治療者~

目次

話したくない患者さん・聞き出したい治療者

治らない治療の原因はもちろんたくさんあります。患者・治療者どちらに原因があるかはケースバイケースですし、鍼灸院においては治療者と患者さんとの接する時間が、病院での治療とくらべてかなり長いことが多いので、両者の関係性が原因であることも多々あります。

初診で治療院に行くと、通常は実際の施術の前に問診から始まります。発症までの経緯や現在・過去の生活習慣、家族関係・仕事上の人間関係、根掘り葉掘り聴きだそうと、1時間以上問診するような流儀もあります。これには、治療者側にとってはできるだけ丁寧な治療・アドバイスをするために、できるだけたくさん情報を集めようという意図があります。ところがそこまで問診されるのが嫌な方もいます。治したい症状の背景にある、家庭内の複雑あるいは深刻な問題を、初めて行った鍼灸院の先生に話したいというのは普通の人情というものでしょう。

治療者側にとったら、「この症状の原因には家族の問題があるのかもしれない、それをはっきりしないと治療が上手くいかない」と考えてなんとかして、半ば強引に聞き出そうという先生(あるいは助手)もいます。融通の利かない先生ならそういう方の治療はお断りしたり適当に治療して帰してしまうこともあります。同じ治療者として、「意図はわかるけど、その強引さはどうかな?」と思います。初診でどの程度まで聞き出せるか、それをもとにどう治療するかは、患者さんと治療者側のかけひきみたいなことがあります。

これがカウンセリングだと、お互いに納得いく目的をはっきりさせて両者共有してからそれに向かって、ひとつひとつ問題を解決するステップを考えることになるかと思います。中国医学の場合、この治療目的の共有というのが患者さんと治療者で違うことが多い。患者さんにとったら「とにかくこの症状をとりたい」、治療者側に取ったら「そのためには治療だけではなくて、患者さんの生活習慣や人間関係も影響しているからこういうふうに改善して欲しい」などと齟齬がうまれやすい。そうすると話したくないということも多々あるわけです。

患者さんの話したくないこと

たとえば子供の問題(ひきこもりや発達障害・知的障害・犯罪など)や、配偶者や家族とのいざこざ等々です。ご自身で解決策が見つからなくて胃が痛い・血圧が高い・眠られないなどが症状が出た場合、治療者に取ったら「それを解決しないとその場しのぎの治療になってしまう」などと思ってしまうわけです。

ただ治療者はそういったものに対する解決策を持っているというか、解決に向けての案を提示出来る人もたくさんいます。治療の現場に長くいると、心理療法の専門家やカウンセラー・医師・弁護士・税理士などといった問題解決のプロとつながりができるものです。そういう問題解決のプロも鍼灸の患者さんとして来られることも多々あります。「このひとだったら信頼して紹介してあげられるな」という方はそれなりにいるものです。「あそこのクリニックの先生は超一流だけどこっちのクリニックは金儲け主義でヤブ」「GoogleMapの評判悪いけど、口下手だけで職人肌のきっちりしたいい仕事をするプロ」とか。こういう患者さんがネットで調べてもなかなか出てこない口コミ情報をもっている治療者はふつうにいます。だから治療者に話して問題解決できないようなことでも、なんとか解決の糸口はみつかったりするものです。

関西人は自虐ネタが好き?

関東出身のある有名な鍼灸の先生が関西の鍼灸学校で学び始めたころ、テレビや演芸場で漫才なんかをみていて「関西(というか大阪?)の芸人はなんで自虐ネタが多いのか不思議だった。」っておっしゃってたことがあります。たしかに昭和から平成中頃にかけて漫才なんかは自虐ネタが多かったように思います。夫婦漫才、とくに離婚してからも元夫婦で漫才やってたコンビは、離婚の自虐ネタが持ちネタで、関西では人気でした。その先生は「他人に自虐ネタで笑い飛ばすことができることって感情の浄化作用があるので重要なんじゃないかなと、しばらくたってから気づいた。」とおっしゃってました。

私は根っからの大阪人で、友だちどうしでも小さい頃から自虐ネタは日常の光景でした。他の地域出身の方にそんな風にいわれると、全国的には普通じゃないのかとちょっとびっくりしました。

まあそれはともかく話したくないようなことを話すのにはある種の自浄作用があるとは思います。

当院での問診は

当院の問診票はちょっと長めですが、初診で根掘り葉掘り患者さんのことを問診することはありません。15分までで終わることが多いです。主訴を参考にしながらあれこれ触診や望診して治療方針を決めます。その過程で生活習慣に問題があるとすれば、「(たとえば)どんな食事が好きですかね」とか「夕食の時間は何時頃ですか?」とか、小さい子供さんがいるとどうだとか、少しずつ聞く感じです。生活習慣がどうであっても主訴が取れる場合もあるし、取れない場合もある。

治療に対して患者さんがどこまで求めるかもあります。それは初診と数回治療してからでは変わる場合もある。そのたびごとにいろいろ問診していく感じです。

よろしければシェアお願いします
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次