左右の経穴を使い分けて陽気と陰気の昇降を行う話

初心者向けの入門講義からの抜粋。

某所で若い鍼灸師にアドバイスしたところ、経穴の左右選択について意見をもとめられました。

たとえば足三里という有名な経穴がありますけれども、これは左右で作用が違います。中華伝承医学の口伝ではなぜ違うのか、人体観や治療理論が明確に伝えられているのですが、明文化されたものを寡聞にして見聞きしたことをありませんし、留学した先生方でも、ほとんどの方はご存じないのではないでしょうか?もしご存じの先生がおられましたらご教示いただければ幸いです。

気一元から陰気と陽気の昇降理論を導き出す

中国の古代哲学は気一元論をもとにしていて、これを陰陽や五行・三才・六気などで分節化して世界を考えます。中国医学の理論もこれにもとづいています。陰陽に分ける場合には形と気と分けます。このときの気を魄といいます。私たちが通常目にしている肉体が形で、肉体を生命たらしめている見えない(霊的な)体を古代の中国人は魄と名付けました。形と魄を陰陽に分けるのなら形が陰で魄が陽です。この両者を交流させている生理的物質を営衛といいます。営は形のものとになるもので、衛は魄のもとになるものと考えてもいいでしょう。もし現代医学に無理矢理あてはめるのであれば、営は血液の中を流れる栄養成分であり、衛は電気といえると思います。

体内をながれるものを営衛に分けて考えることは、古典鍼灸を学んでいる人たちにとっては常識的な知識です。営が陰で衛が陽なので、営衛の交流を陰陽の交流として理論を展開します。それに対して中華伝承医学では営衛をさらに二分化して考えます。つまり陽気と陰気に昇降という陰陽に分節化します。つまり

  • 陽気を昇らせる
  • 陽気を下ろす
  • 陰気を昇らせる
  • 陰気を下ろす

の四種に分けます。

易では太極から流出して二分化した陰気と陽気を両儀、それをさらに二分して四つにわけることを四象(太陽・少陽・太陰・少陰)といいます。ですから陽気と陰気の昇降を考えることは四象に対応します。営衛の二分化より一段階分節化が深いわけです。

これから述べる気口九道脉診の人体観をもとにしていた流派では陽気の昇降を太陽の昇降に、陰気の昇降を月の昇降に象徴化して考えます。それ以外にも、たとえば人体を六合の観点から考える流派は陽中陽分・陰中陽分・陽中陰分・陰中陰分と表現したりします。流儀によって表現と視点は若干違いますが、やろうとすることは基本同じです。

陰気と陽気を左右に振り分ける

正経十二経は左右対称にあって、流注の走行方向は同じですが、陽気と陰気の昇降を考えるときはそれに従いません。

右の陽経を下から上に向かって配穴するのは陽気を上昇させる(体表を暖める)。
左の陽経を上から下に向かって配穴するのは陽気を降ろす(お腹を暖める)。
左の陰経を下から上に向かって配穴するのは陰気を上昇させる(活血する)。
右の陽経を上から下に向かって配穴するのは陰気を降ろす(滋陰する)。

という作用があります。これはどのツボを使ってもそうなります。たとえば右足の陽明胃経を配穴するときには衝陽・下巨虚・上巨虚・足三里どこを使おうと、基本的に陽気を上昇させる経穴です。違いはどこの部分の陽気を上昇させるかの違いです。あとは経穴の補瀉で上昇を促進するのか抑制するのかコントロールする違いだけです。なぜこのようになるかというと陽気と陰気の昇降は臓腑の生理と対応する経脈の反応をもとにした経脈・経穴の使い方であって、経絡に力点を置いた流注の考え方とは違うからです。

脉学例

気口九道脉診でこれを見る場合、疏滞している左右の経脈を探し出して、そのバランスをみて陰気と陽気の偏在具合をさぐります。六合に視点を置いた流派では陰陽七分脉診を使って脈の内外の走行バランスを診て陰陽の偏在具合を診ます。このような脉診をすると、体表のどのあたりにどのような反応がでているか予測しやすいです。触診や望神などと組み合わせて陰陽の辺在性を考え、病因病理を考えるわけです。

配穴例

配穴例として、鍼灸師ならよく使う申脉・後谿の奇経配穴ついて説明してみます。申脉と後谿を左右どのように使うか悩む方は結構いるのではと思います。

陽気を上げるには、右申脉を補して左後谿を瀉す。
陽気を下げる(内向させる)には右後谿を瀉して左申脉を補す。

という組み合わせが基本です。
右申脉・左後谿を瀉すのは陽気を上昇させるので、気虚や陽虚のときに使います。それに対して右後谿瀉して左申脉を補すのは逆気を下ろしてお腹を温める作用があります。

このようなことを考えて配穴の左右や配穴の順番を考えていきます。

上に書いたとおり、これは内蔵の営衛の気を操作しているのですが、勉強会ではそれが人間の解剖生理とどのようにリンクしているかお教えしたりしています。

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