慢性疲労症候群に対する鍼灸治療の視点

以下は株式会社ヒューマンワールドさんが発行しておられた専門家向けのメールマガジン『あはきワールド』の2020年3月4日・11日号に投稿した原稿です。

◎◎はこう治す! 私の鍼灸治療法とその症例File.71

慢性疲労症候群はこう治す!
~私の鍼灸治療は陳景雲先生から習った古流中国医学がベース~

『あはきワールド』2020年3月4日・11日号

というコーナーで発表させていただきました。

目次

慢性疲労症候群はこう治す!(1)
~古流中国医学を軸にした慢性疲労症候群の鍼灸治療~

はじめに

はじめまして。大阪の鹿島です。「◎◎はこう治す! 私の鍼灸治療法とその症例」のコーナー執筆のお話をいただいたので、慢性疲労症候群について書いてみたいと思います。

ただ、私の慢性疲労症候群の治療といっても枝葉末節は別として、治療の組み立ての基本構造は病気の種類や人にかかわらず同じです。古典にのっとった人体観・病理観・診察法をもとにした扶正袪邪・疏通経絡・陰陽調整につきます。内生五邪・外感六淫を除いて正気を補い、経絡経筋を疏通し、陰気陽気の偏在性を体質や季節に応じて調整します。

古典を標榜する流儀はたくさんあってこのようなことはどの流儀でもやっていらっしゃるのでしょうが、私は古流の中国医学を受け継いだ陳景雲先生から習った流儀をベースにして治療をしています。日本ではごく少数の治療家しか知られていない流儀なので、特殊といえば特殊です。現代中医学とは違う古い中国医学です。この古流中国医学を軸に、私がいろいろな先生から習ったものを折衷しています。陳景雲先生から習ったもの以外はみなさんがどこかで見かけたことがある治療なので、陳先生から習ったことに焦点を当て、私なりに解釈してお話してみたいと思います。あまりに特殊なのでさわりだけしかお話できませんが。

陳景雲先生との出会い

私は小学生(40年ぐらい前)の頃から潰瘍の持病があって2~3年ごとに大出血、1カ月以上の入院を繰り返していました。今はいい薬がありますのでそこまでいくことほとんどはないでしょうが、西洋医学は根本的な治療にはならないことに絶望して、高校生の頃からいろいろ試行錯誤していました。食事療法やヨーガ・呼吸法・瞑想などが主でした。漢方も飲んでいたことがあります(いま思い返せば素人だましの処方でした)。京都の仏教系大学に通っていたのでその手の情報は入手しやすく、学ぶ場もたくさんありました。それでも根本的な改善には至らず、入退院を繰り返す状態でした。

そんな私が陳景雲先生に出会って転機が訪れたのは大学を卒業した年、23歳の時です。先生は幼少の頃、中国武術を学ぶために台湾の高名な先生のもとに弟子入りしました。当時は大陸の共産党政権からのがれるために台湾や東南アジアに移住した中国の伝統文化を受け継ぐ伝承者がたくさんいたようです。陳景雲先生はそういった先生方から伝承を受け継ぐ才能を見込まれて、中国の伝統的文化を受け継ぐ教育を受けました。口伝で代々伝えられていた古流の漢方や鍼灸を受け継ぐ伝承者たちからも教えを受けました。20代は米国に渡って西洋医学の医師になりました。

そんな先生が受け継いだ伝承医学は<生きた>『黄帝内経』でした。『素問』や『霊枢』『難経』、『傷寒論』あたりも含めてですが、いまそのまま読んでも背景の思想構造がよくわかりません。思想構造から実際の治療にいたる技術も濃い霧の中を歩くような感じがあります。つたない語学力をもとに注釈書を読んでもその霧は晴れません。しかし陳先生から習うと霧が晴れて来る思いでした。私はそういう伝承者がいることに驚き、中国文化の奥深さの一端に触れ、中国的発想を学ぶことができました。

古典のそもそも論~古典医学の基本的構造~

中国古典医学の基本的思想には陰陽・五行・三才(天人地)・三陰三陽・四時・六季等々みなさんご存じの考え方がありますけれども、そうした視点で人体を分節化して分析し、個々人の体質と体調・その季節・その土地のことを考慮しながら現時点でベストと思われる方へ向かって調節していくのが古典医学の基本的発想です。流儀によって分節の視点がいくつもあるのでそれによって病態の分析視点が違ってくるのですね。

こういったことの理念的な面は学校でも習うことだと思いますけれども、実際に診察・治療していく段階の診察法や治療法となると納得できる解説書がなかなかないのではないでしょうか? あれだけ詳細に理論構築を試みている現代中医学でさえ、実際の診察法となると非常に心許ないです。分節視点が不明なばらばらにされた病態の分析はたくさんなされていますが。現代中医学はあくまでも「現代」中医学であって、「古典」中医学ではないというのは、少し勉強された方ならご存じでしょう。私は『黄帝内経』『難経』『傷寒論』『金匱要略』等の基本古医書に織り込まれた何セットものそういう診察法・治療法を陳景雲先生から学びました。

学生さんや免許を取って間もない方には、ちょっとイメージしにくいかもしれませんので、『難経』の冒頭の脉診法を例に挙げて説明してみましょう

『難経』の脉診の構造~人体の診察法~


何度も書きますが、どの古典でも古代の医学は病理と診察・治療法に一貫する思想・哲学があります。ひとつの方法ではすべてを診ることができないので、分節視点・診る視点によって大系がいくつも生じました。

『難経』の脉学では、陰陽・五行・三才(天人地)・三陰三陽等々の思想を用いながら、体の生理病理を単純な分節化から複雑な分節化まで順を追って記述されています(詳しく知りたい方は西岡由記先生の『図説 難経』(宝栄企画刊)をお勧めします)。一難は易の太極-両儀(陰陽二気)でもって体を二分節化するところから始まります。

中国古代の思想では、現象世界は気でできていると考えられています。人も気が離合集散して生じると考えます。その気を陰陽視点から魂魄二気に分けて考えました。魂魄の二気から人間のこの世的な意識である神が生じます。神は神様というニュアンスではなくて現代でいう意識のことです。

魂も魄も漢字の旁(つくり)は鬼という字を当てています。鬼の上は頭で下はあしだそうですけれども、これは現代でいう霊に近いニュアンスです。霊的実体です。魂は心の霊的側面で人間が死んだら天に昇ります。偏(へん)の云はもともと雲のニュアンスだったようで、死んだら魂は天に昇っていきます。魄は物質としての肉体を生命たらしめている霊的要素です。魄の偏(へん)の白は骨のことで、物質としての肉体を生命あるものとする肉体の霊的部分です。インドでプラーナと呼んでいるものと同じです。内気功で気を廻らせたり、外気功で気をやりとりするときの気をイメージしたら良いでしょう。このときの気が魄のことです。人は死んだら肉体とともに魄も雲散霧消します。

魂魄両者が健康であることが人間本来の健康であるという発想にもとづいて古代の思想は体系づけられています。魂-心の健康は仙学や後代の内丹法などの宗教的・精神修養的技法が受け持ち、魄-肉体の健康は医学・導引・気功などが受け持っていました。だから古代には医学だけでなく仙学も学んだ医師が多かったのです。あまり表に出てきませんけれども、『難経』もこのような発想がベースに置かれています。

『難経』十四難に五体の話が出てきます。人間の体を骨・筋・肌肉・血脉・皮に分けていますけれども、これはより物質的なものからより魄に近いものへ分節化した概念です。骨は一番気の流動性が低い部分で、皮はいちばん流動性の高い部分です。魄=気の状態が部位によって違うのですね。十五難では皮位から骨位、外側から内側へ流れて行くベクトルの気が陰気、内から外へ行くベクトルの気が陽気として、その病理を述べています。肉体を物質と気にわけ、体の物質的構成要素を五、気を陽陰二気に分けています。ここでの五は五行というよりも、インドの五大説的人体観を彷彿させます。肉体という全体性(太極)を物質と魄の陰陽二気(両儀)に分け、物質をさらに魄の影響の弱いものから強いものに五つに分け、魄を陽気と陰気に分けています。『難経』の人体観の基本的発想は物質と魄からできた肉体をどのように分節化してみていくかにあります。そういう視点でもって、石田秀実先生のいう「流れる身体」を一難から順番に細分化し、それぞれの分節視点の病理・生理を述べているのです。

さて、『難経』の一難のポイントは上にも書いたとおり、肉体を営衛や陰陽に二分する視点から始めているところです。易の太極から陰陽の両儀に分ける発想に基づいています。流れるもの=営(陰)・衛(陽)、場所=内(陰)・外(陽)というふうに考えているのですね。場所の陰陽を前(腹側)と後ろ(背側)と考えることもできますし、密接な関係がありますけれども、営衛と対応させると内と外でしょう。

で、その営衛と内外の場所に夜昼の時間軸を入れて、昼は衛が優勢になって陽側(外側)をめぐり、夜は営が優勢になって陰側を巡る。両者が昼夜「等分に」優勢になるのが健康な状態だというのです。「等分に」とカギ括弧をつけたのは、あくまで両儀の発想を元に理論的に考えているからです。実際は昼夜の時間は季節によって、あるいは緯度によって変わってきますよね。そういうことをここでは省いています。

では等分の状態から逸脱したらどうなるでしょうか? たとえば衛が優勢になる時間が夜にずれ込めば入眠困難になるかもしれません。ほてりやすくなったりするかもしれません。営が優勢になる時間が朝にずれ込めばなかなか起きられないかもしれません。衛の力が弱ければ一日中だるいかもしれませんし、営が弱ければイライラしたり落ち着きがなくなったり痩せてくるかもしれません。病理は書かれていませんが、いろいろ考えられます。

脉診としては衛が優勢になれば浮きますし、営が優勢になれば沈みます。夜になっても浮いているのなら衛の大過(陽実)か営の不及(陰虚)、朝になっても沈んでいるのなら衛の不及(気虚・陽虚)か営の大過(陰実)ですね。

治療としては、営をコントロールするのに関元、衛をコントロールするのに命門はどうでしょうか? 肺と腎の原穴や背兪穴を使う方法もあります。陽蹻脉・陰蹻脉を使う方法もあります。でもこれらはあとの難で出てくる上下や五臓・奇経の発想が組み込まれています。それは置いておいて、何はともあれ、ざっくり両儀で考えようというのが一難の重要な視点です。ただし、営衛を関元と命門だけで意識的に動かそうとしたら、ちょっと複雑な刺法が必要です。

もう一つのポイントは「寸口者、脉之大会、手太陰之脉動也」という記述です。十二経の動脈拍動部で寸口が一番診やすいというのもあるのでしょうが、それよりも「手太陰之脉動也」が重要です。手の太陰が接続する肺は魄と密接な関係があります。なぜなら呼吸によって魄をコントロールできるからです。中国でもインドでも魄をコントロールする呼吸法が非常に発達しました。呼吸をコントロールすることによって魄を活性化・沈静化させたり内外・上下に移動させたりすることができます。一難の中でいうと営衛どちらを優勢するとか、内外どちらに集めることとかができます。「肺には魄が宿る」という発想はここから出てきているわけです。だから手の太陰肺経の寸口脉を流れる血は、肉体を構成する物質とそれを維持・新陳代謝するエネルギーを運んでいますので、魄と肉体との関係が動脈拍動状態を通して観察することができると考えたのでしょう。

二難では体の上下の概念、寸尺が組み込まれます。内と外の両儀をさらに上下の陰陽に分けているのですね。易ではこれ四象と呼びます。老(太)陽・老(太)陰・少陰・少陽の四分割です。営衛の分布を四分割するのが二難で、その病理である大過と不及(虚実)、陰乗・陽乗を三難で述べています。

ただし三難には寸外・尺内が出てくるので、実際は寸外・寸・尺・尺内、4カ所診ています。寸尺は体幹なので、寸外は頭部、尺内は下肢ですね。さらに寸尺はあとで寸関尺の三部に分けて診ますから、結局『難経』では上下軸としては片手で五部位診ていることになります。

いずれにせよ、一難の内(腹)・外(背)に、二難の上下の概念が加わると、体幹を4分割してみることになります。のちほど、上中下に3分割、左右に2分割しますから、体幹で12分割ですか。最終的に三部九候になりますから18分割ですかね。これに寸外・尺内が加えられているのが『難経』の脉診の分割方法ですね。

四難では五蔵の概念が出てきて、脉の浮中沈と脉状(祖脈)が五蔵とどのような関係にあるのか、五難では脈管の直径を五段階に分けて五蔵に割り当て病位をさぐる位置を述べ、六難でその陽気と陰気の虚実を述べています。七難では季節の脉が出てきます。長くなるのでそのあとは省きますけど、このようにして順を追って人体を細かく観察して病因病理を見つけ出そう、扶正袪邪・陰陽調節を行って理想的な状態に持っていこうというのが『難経』の脉診・診察法であり、中国医学の基本的な発想の一つの型であります。私も基本的にそういう視点で治療しています。

ただし『難経』の診察法はひとつの型なので診られるもの診られないものがあります。たとえば『難経』の脉診では経絡経筋の状態や臓腑の損傷状態(傷科)は診られません。臓腑を流れる血液循環の生理・病理状態を観察できるだけです。私はこれ以外に経絡経筋の状態を診るのには気口九道脉診、臓腑の損傷状態(傷科)を診るには『素問』脈要精微論篇の脉診、傷寒なら『傷寒論』の脉診などを組み合わせて使っています。どのような疾患を診る場合もこういう発想がベースにあるので、「この病気にはこれ」みたいなのはあまりありません。強いていえば古典や現代の文献に記された特効穴を参考にしたりしますが、それもこういった大系の中でどういうふうに使えばいいのかというのを考えて使っていますので、独自解釈の視点が入っています。

慢性疲労症候群はこう治す!(2)
~古流中国医学を軸にした慢性疲労症候群の鍼灸治療~

大阪には慢性疲労症候群(Chromic Fatigue Syndrome :CFS)を研究する大学病院と関連クリニックがあって、当院の患者さんも通われている方がいらっしゃいます。国からの研究費が下りてかなり特殊な検査をすることもあります。しかし病院で出される西洋薬や漢方薬を服用されても根本的な改善は認められないので、われわれのような治療院に来るということになります。ただ鍼灸院に来られる慢性疲労症候群の患者さんは比較的軽度から中度ぐらいかとは思います。重くなると外出が困難になるので、鍼灸院に通うのは無理で、せいぜい出張治療になるでしょう。

慢性疲労症候群の原因

慢性疲労症候群の原因ははっきり分かっていません。感染症にかかったあとになることが多いので、何らかの感染源によるものかもしれないと研究はされているようですが、特定される原因はつかめていません。

感染症にかかったあとになるのに原因がはっきりしないというのは、感染源に問題があるのではなく、免疫システムに異常をきたし、感染しやすい体調になっているだけかもしれないという個人的な感想はあります。家族性(遺伝性)も考えられていますけれども、それもはっきり分かっていません。ひょっとしたら同じような生活をしているからそうなるだけかもしれません。

最近の研究では脳内に広範囲の炎症があることもわかっていますが、その炎症が原因なのか結果なのかは分かってないようです。

慢性疲労症候群の症状

慢性疲労症候群の症状は慢性的な疲労感が一日中あり、日常生活が困難になります。ひどくなると寝たきりや車いす生活を強いられる方々もいらっしゃるようです。ただしここまで重症な方が鍼灸院に来られるのはまれでしょう。微熱がかなりな割合であります。一日を通しての微熱でなくても夕方から発熱する日晡潮熱の場合もあります。軽度だと寝汗だけの場合もあります。

関節や神経の痛み、筋力の低下があるので線維筋痛症との関連も指摘されています。ほかには不眠、のどの痛み、頭痛等々があります。これは炎症と関連しているかもしれません。不眠は微熱に次いで多い症状です。

臨床的に感じた傾向

専門病院で慢性疲労症候群と診断を受け、当院に来院された方を問診しますと、大半が体力中程度かそれ以下の方で、いわゆるアスリート系の体力の方はあまりいらっしゃいませんでした。みなさん肉体的あるいは精神的に無理な生活をした後に発症されています。大半には微熱症状がみられました。中国医学的には実熱ではなく、全員が陰虚系の熱でした。中医弁証的には気虚・陽虚系の体調になったあと、ストレスや過労で腎陰虚・肝陰虚から肝火上炎されています。頭部を触診しますと脳内に熱を持っておられます。

治療

まず感染症や甲状腺機能異常、各種炎症性疾患がベースにないかを診ておく必要がありますが、鍼灸院に来る前に、病院でそのあたりは除外診断されているかと思います。注意点は食生活を細かく問診しておくことです。病院での血液検査で問題が指摘されてなくても、食生活が悪く栄養状態に問題がある人が多いです。コンビニやファーストフード、スーパーの惣菜なんかを食べていたり、糖質過多ではなかなか症状が改善しません。たぶん分子栄養学的に栄養素を細かく検査したら何か出てくるのではと思います。この部分は従来の医学教育から見落とされた分野で、古い教科書的知識しかもっていない医師がたくさんいるので注意が必要です。

最近は臨床医がさかんにそれを問題視して、分子栄養学的な方面から治療を行う医師もでてきました。三石巌・溝口徹・藤川徳美といった先生方の本が結構売れているようです。私も何冊か読みましたが、読んでいますと検査値の正常範囲の下限が低めに設定されているのではと感じさせられます。

あと健康志向の自然食・マクロビ食・ヴィーガン食も長期間続けていると栄養不足になることが大半なので、やっていないかどうか問診のときに聞き出しておきます。他の病気でもヴィーガンにこだわってなかなか治らない患者さんがときどきいらっしゃいます。

当院の患者さんには基本的にマルチビタミン・マルチミネラル・アミノ酸・プロテインあたりを毎日摂取するようにお勧めしています。

さて、実際の治療にあたって私は微熱(虚熱)を下げることを第一に置いています。その次が不眠です。

なぜ微熱を下げる治療を第一におくのか? 疲労感という気虚・陽虚系の症状が一番強いわけですけれども、陰虚の治療をしないで気虚・陽虚の治療をすると、陽を補うことによって陰虚が悪化することになることが多いので、最悪発熱がきつくなります。微熱によって正気も損傷するので気虚・陽虚も悪化します。微熱を下げることによって陰虚と気虚・陽虚の症状が改善していくんですね。不眠も同じ理屈です。「本治法が重要」といっていきなり補ったりすると悪化することが多いので要注意です。

方法としては右の行間・然谷あたりを使って腎陰・肝陰を滋陰しながら、脳の炎症にアプローチします。百会あたりの頭部の経穴や背熱穴あたりを使って熱が落ちないこともないんですが、いまいち深部まで清熱することができないので、クラニアル風の頭蓋操作に気功の点穴治療を加えます。点穴でよく使う経穴は百会と印堂です。この点穴療法は台湾で道教の修行をなさった方から教わったやり方で、一般に知られている点穴治療とは違います。専門的にクラニアルの修練を積んだ方なら、それだけでも可能かと思います。ポイントは、必ず一回一回の治療で降火滋陰をすることです。上炎が心や肺にまで及んでいる場合もあります。必ず下を滋陰しながら、上から順に火を落とすことです。そうしないと半日~1日ぐらいで、元に戻ると思います。

上記のような治療を何度か行っていると、上から順に火が消えてきます。回数を重ねるごとに清熱・降火ポイントを上から下へ降りてきたら上手くいっているはずです。そのようにして虚火がある程度落ち着いたら気虚・陽虚の治療が可能になります。治療の本番はここからで、どこまで気虚・陽虚の症状が改善できるかは、発症からどれだけ経過しているかとか、元々の素体の強さとかが関係しています。

清熱降火は傷科の治療になるので前回さわりだけ書いた『難経』の人体観や病理観・治療法ではちょっと厳しいです。傷科の病理観、診察・治療法が必要です。私は傷科の治療には陳景雲先生から習った『素問』脈要精微論篇の脉診を使っています。

前回の最後に「経絡経筋の状態を診るのには気口九道脉診、臓腑の損傷状態(傷科)を診るには『素問』脈要精微論篇の脉診などを使います」と書きましたけれども、このことについて少し述べられているのが私も共同執筆した『埋もれている脈診の技術 気口九道―経路・経筋・奇経治療』です。この本は陳景雲先生の気口九道脉診に関する講義をまとめた本です。前半が気口九道脉診の発想と使い方、後半の十二経絡や奇経について述べた部分は傷科や傷寒ともからめた気口九道脉診の使い方が書かれています。よかったら参考にしてみてください。

清熱降火は傷科の治療、滋陰や補気・補陽は扶正と、分野をきっちり分けて治療することが重要です。これにそのときどきの体調、たとえばこの小文を書いているのは12月ですが、カゼにかかることが多い季節ですので、そのときは傷寒の治療を加えるなどの微調整は当然必要です。

最後に

最初にも書きましたけれども、どんな病気であってもこのような感じで、陳景雲先生から教わった伝統的流儀にのっとった方法で治療していますので、「この病気にはこれ」みたいな発想はきわめて少ないで

慢性疲労症候群の予後に関しては、まったく通常の生活ができるようになった方もいらっしゃいますし、仕事はできないけれども家事や遊びにいくことはできるようになったという方が大半です。ただし頻度と時間は必要なので、費用面でなかなか都合が付かなくて途中で脱落する方もいらっしゃるのが心苦しいです。

慢性疲労症候群になると、回復するまでは働けなくなるので、費用的に余裕がないと治療もなかなか上手くいきません。働けはしないけれども、なんとか最低限の日常生活は送れるようになったということで十年以上通ってくださっている方もいらっしゃいます。そういう方は家庭に金銭的に余裕がある方なのですが、家計の事情は私ではどうしようもないのがつらいところです。
(終)

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