10代から20代の女性から、「勉強や仕事にやる気が起こらず常にしんどくて、メンタルクリニック・心療内科に行ったらうつ病と診断された。薬を処方されたがあまり変化がない。鍼灸治療に何ができるか」といった相談が増えてきました。
他の記事でも書きましたが、栄養に問題があってうつ病になっていることがあるので、当院では栄養学的なチェックを医療機関でしていただくことを優先しています。
うつ病と栄養失調
うつ病と診断された方が当院に来られた場合、下に書くような鍼灸の施術をしますけれども、それ以前にオーソモレキュラー療法(栄養療法)を行っているクリニックでの専門的な検査とサプリメント療法をまずはお勧めしています。
血液検査なら心療内科・メンタルクリニックでもやっているところが多いと思います。しかしオーソモレキュラー療法を行っているクリニックで行う検査の方がはるかに検査項目が多いことと、検査データの読解基準が普通の医師とは違うことが多いです。
検査データの読解基準が違うというのは、正常値に対する考え方が違っています。たとえば貯蔵鉄であるフェリチンの正常値は検査機関によって若干異なるものの、男性 20~250ng/mL・女性 5~120ng/mLです。普通の医師の多くは女性が10前後でも正常の下限と判断すると思いますが、オーソモレキュラーを取り入れている医師ならかなりな貧血と判断すると思われます。
そのようなわけで、普通の医師にとっては問題ない栄養状態でも、オーソモレキュラー療法を行っている医師が栄養失調と判断することは多々あります。他の疾患でも同様のことがたくさんあります。
鉄不足(貧血)とうつ病
精神科医の奥平智之先生が一般向けに書いた、うつ病と鉄欠乏を解説した本が、ベストセラーになってマンガ版まで出ました。栄養失調とうつ病の関係を一般に知らしめたのは奥平先生の大きな功績です。奥平先生のお父上は昭和の有名な鍼灸師なので鍼灸に好意的で、ご自身も漢方治療を取り入れておられるようです。
この一連のシリーズは鉄欠乏性貧血に重点を置いて書かれています。生理のある女性は毎月、鉄が失われるので、男性より貧血になりやすいのです。だから鉄欠乏を改善させるだけで改善するうつ病がたくさんあるという理屈です。同様のことはオーソモレキュラーの本をいくつも出しておられる藤川徳美先生も書いておられます。
実際には鉄を補うだけでなくて、他の栄養素も関係してきますから、きちんとオーソモレキュラーの検査をして処方するサプリメントを考えないといけないです。そういうのは医師しかできないので、うつ病の方が当院に来院されたらオーソモレキュラーをお勧めするわけです。
うつ病と鍼灸
当院でオーソモレキュラー療法を実践していただいた方に、いくつもサプリメントを飲むと気持ち悪くなる、推奨量を飲んでも効きが悪いと訴える方がけっこういらっしゃいます。このような反応なさる方の多くは栄養失調で胃腸が弱っていて、消化吸収機能がうまくいってないんです。オーソモレキュラーのサプリメント療法だけなら時間をかけて慣らしていくしかないのですが、鍼灸治療なら積極的に消化吸収機能が改善できます。ただし、こういう鍼灸治療は伝統的な方法で詳細にお体を診て、治療手順を考えなければできません。ですから、西洋医学的な観点の鍼灸や対処療法的な観点の鍼灸ではなかなか上手くいきません。かといって伝統的な方法でやっている鍼灸師は少ないですし、経験豊富だとさらにできる方は限られてきます。
いずれにせよ胃腸の働き・内臓の働きを改善させた上でうつ病へのアプローチを考えます。うつ病に効くツボというのはないのです。さもうつ病に効くツボがあるかのように語る鍼灸師は注意した方がいいでしょう。
補足
男女関係なく、10代の体育会系の方はもともと体力があって消化吸収能力が高いので、オーソモレキュラーのサプリメント療法だけでも急速に症状が改善することが多いです。運動していて栄養の消耗が激しいのに適切に取れていなかったのがうつ原因というのはよく見かけます。