2年ほど前に仏教サロン京都さんから五行論の講義の講義を依頼されて、やっと今年にお話できたのがこの「古代中国の宗教的五行論」(全二回)の講義でした。
この講義では前半に五行論の発生と道家でどのように理解され、臨床的にどう使われたのかという構造、つまり物語を語ることでした。後半は前半を踏まえて、おそらく道家・道教系の影響を受けたと思われる天台大師智顗の『天台小止観』の治病法の五行論と四大論の解説でした。
前半では、まずちまたの五行論と現代中医の五行論のお話をして、その間違いや問題点などをいくつか提示しました。その次に現代の文献学的な通説の話をして、そのあとで道家(のある流派)が『老子』の思想を元に五行論をどのように受容したかを述べて、それが世界観や人体観・病理観にどのように組み込まれ、診察法、特に脉診法までに落とし込んでいく過程を述べました。そこには道-徳-気一元論-五行-世界観-身体観-病理観-診察理論という一貫した思想的展開があることを述べました。中医理論がこのように展開して成立したことを、現代中医や鍼灸学校の教科書では明示されていません。知らないのです。
後半は前半は天台大師智顗の『天台小止観』の病患章にでてくる五行論の概説です。天台大師智顗の思想は約200年後に最澄によって日本にもたらされ、鎌倉仏教の母体ともなりました。天台大師の最大の功績は、それまであった仏教の止観理論を『摩訶止観』にまとめ上げたことにあると思います。『摩訶止観』はそれまでの仏教の瞑想理論をまとめ上げた書で、東アジアの仏教の瞑想理論はかならず『摩訶止観』を踏まえています。天台大師は止観に関する論書をいくつも書いておられますが、早い時期に書かれた『釈禅波羅蜜次第禅門』の要約版的な書が『天台小止観』で、両者をふまえて『摩訶止観』が書かれました。それらの中に治病章があります。これは修行を進めて行くにあたって様々な精神的・肉体的な病を煩うことが多いのですが、これを止観によって治す方法が記された章です。
ポイントは二つあって、ひとつはお釈迦様の時代からインドにあった身体を四大(地水火風)の構成要素から考える視点と、中国医学の五行・五蔵六府として考える視点とがあるわけです。この講義では四大と五蔵六府の関係を述べて、天台大師はそれぞれどのように病理と治病を考えていたかを概観しました。止観だけでなく、気功的なものも含まれていてなかなか面白い章なのですが、この部分を読み解くには中国医学の知識が必要です。しかし仏教系の文献学者はその方面が苦手なので、論文はいくつかあるのですが、表面をなぞっただけだけのものが多いので、まとめるのがなかなか大変でした。バージョンアップしてまたやりたいですね。
仏教サロン京都さんの最近の講義は、新進気鋭の学者や学僧が多く、学問とは縁遠い私の話なんかどうかなと思ったのですが、同業者がずいぶん参加してくださって、主催のKさんにもびっくりしていただけるほどでした。質問や感想ももいろいろいただいて勉強になりました。
下にそのときの講義の抜粋動画を貼り付けておきます。