当院では施術中のさいに、患者様に養生法をアドバイスすることがあります。五行の色を使った養生法にはいろいろあるのですが、以下に書くのは服装に関する養生法です。どういう症状のときにどういう色の服をどこに身につけたらいいかというのが、基本的な発想法になります。
鍼灸学校に入学したら授業で陰陽五行について習うのですが、学生さんに聞きますと、多くの教員も実際にどういうふうに使うのか知らないことが多いようです。中国では五行色にもとづいて絵を描いたり、その絵から心の状態を診察したり、体調に応じて服の色を変えたりと、いろいろな使い方があります。
五行色 | 五蔵 | 場所 | 効果 |
緑 | 心 | 胸 | ストレスを除く、胸のつかえが取れて気分がよくなる。心の症状が取れる。 過多は下痢。 |
朱 | 脾 | 腹 | 悲しみを除く、意欲が湧く、胃が弱っているときにはいい。 過多は高血圧、時間が長く感じる。 |
黄 | 肝 | 脇 | 不安感を除く、スタミナが付く。 過多は浮腫 |
白 | 腎 | 下腹 | 迷いを除く、決断力をつける。 過多は 便秘。 |
紺 | 肺 | 胸 | イライラ除く、落ち着つける。 過多は血圧が下がりすぎる、時間が早くなる。 |
五行色(五色)について
まず五行の色は青赤黄白黒と習いますが、実際は緑朱黄白紺です。これが古代の色なんですね。仏教寺院で五色幕や五色幡というのを見かけたことがおありの方が多いと思いますが、この五色は現代でいう青赤黄白黒ではなくて緑朱黄白紺です。古代の文化を伝承してるんです。
五行色の青(緑)の性質
青は緑、新緑の葉の緑のことです。日本でも信号の緑色を青といったりする使い方が残っていますね。仏教では上記の五行の色の幕や幡が用いられます。それは青じゃなくて緑が使われています。
緑にはストレスを除く、胸のつかえを取って気分をよくするという効果があります。そのことから、五蔵における心の症状が取れると中国医学では考えます。ストレスがあるということは気がのぼせて上半身にうっ滞し、ひどくなると熱っぽくなるというのはイメージしやすいと思います。だから養生法としては上に着るもの、とくに前胸部に緑色の配色がなされた服を着ます。そうすると緊張がとれてすっと、するわけです。ストレスがたまったときに山や里山にいくと癒やされるのとおなじです。
ただし過多になると下痢をするので、下痢しやすい人は要注意です。
五行色の赤の性質
五行色の赤はREDの赤じゃなくて朱色です。日本でも古代の建築物には朱が使われていました。奈良の平城京に再現された朱雀門の柱をイメージするといいでしょう。朱の色は血圧を上げて脾の働きをよくする作用があるので、胃腸の働きを活発にしてくれます。朱色の腹巻きあたりがちょうどいいです。意欲が湧いて、まよい憂い悲しみを吹き飛ばしてくれます。
過多は高血圧、時間が長く感じる作用があります。ちなみにレッドの赤は気を上昇させる力が強いので、養生には向きません。
五行色の黄の性質
黄色は黄土色あるいは、やまぶき色と思ってください。カレーを黄色くするウコンの色です。レモンの黄色ではありません。スタミナをつける色なので不安感を除く作用があります。表にはありませんが、湿除く作用もあります。五蔵では肝を養います。解剖生理学的には総肝動脈の血流量を増やすと考えればいいでしょう。肝なので脇に黄色が配色された色がいいです。全体が黄色のシャツでもかまいません。
スタミナがつくので交渉ごとがあるときに黄色い色の服を着るといいです。興奮して赤くなるとだめです、あくまでも理性的に根気よく攻めるにはスタミナが必要です。こういうときに黄色い服を着てのぞむといいです。
過多になると浮腫が生じます。むくみやすい人は気をつけましょう。
五行色の白の性質
天然には真っ白と真っ黒はありません。五行色の白は絹の白をイメージするといいです。白は心を清浄・まっさらにしてくれます。結婚式のときに女性が白いウエディングドレスや着物を着るのは、清浄性・処女性を表す色だからです。白は心の迷いを除き、決断力をつける色です。男性でもお堅い仕事をしている人は白のワイシャツを会社から要求されたりしますね。白の性質を効果的に出すのは下半身に身につけることなので白いズボン・白いスカートですね。昔の医者や看護婦は白衣でした。
過多は 便秘になります。
五行色の黒の性質
白のところで書いたように、自然界に真っ黒はありません。五行でいう黒は濃紺あるいは濃い藍色をイメージしてください。仏教の五行旗では紫になっているものもありますが、基本的には濃い藍色と思っておいてください。日本海の海の色でもいいです。
黒(濃紺)にはイライラ除く、落ち着つける作用があります。それだからでしょうか?リクルートスーツには濃紺もしくは黒が選ばれます。心を落ち着けるという意味でも濃紺の方がいいですね。
過多は血圧が下がりすぎる、時間が早くなるという作用があります。
余談ですが、人間国宝の染織家である志村ふくみ先生は、日本の女性は藍染めの着物が一番よく似合うと何かに書いておられました。
五行色と五蔵の関係
鍼灸師や漢方やっておられる方は、五行色と五蔵関係に疑問を持った方かが結構いらっしゃるかもしれません。
「五行で五蔵の親の色の相生関係になっていないか?たとえば青(緑)と心。でも黄と肝、紺(黒)と肺は相生関係になっていないよね?」などと思われたんじゃないでしょうか?
たしかにそのとおりなのです。五行説において、五色と五行はすべて相生相剋などに対応していません。これは相生相剋関係などで理論的にやっても上手く機能しなかったので、機能するようにこのような配当にしているのです。五味と五蔵の関係も、口伝では理論的に対応しないものがあります。ここが、実際に臨床で使える理論なのかどうかの境目です。
理論的に整合性のある例を挙げている書物は、臨床を踏まえたものでない可能性があります。古典を読むときの注意点のひとつです。