当院に来院された慢性病や難治の患者さんに、医療機関でオーソモレキュラー療法の診察と治療を勧める機会が最近増えました。個人的な経験も含めて鍼灸との併用が効果的であることがわかってきたからです。
オーソモレキュラー栄養療法とは
オーソモレキュラー栄養療法(orthomolecular medicine)は、我が国では「栄養療法」「分子栄養学」「分子整合栄養医学」ともよばれ、個々人の身体にとって最適な栄養素量を摂取できるように、栄養素をサプリメントや点滴などで補って、身体の不調や病気を改善していく、二十世紀後半に生まれた比較的新しい西洋医学分野です。
Orthomolecularという言葉はOrthoとMolecularを合わせた複合語で、「オーソ(Ortho)」とはギリシャ語で「正しい」、「モレキュラー(Molecular)」「分子」を意味します。1954年にノーベル化学賞を受賞したアメリカの化学者ライナス・ポーリング博士が、1968年に科学誌『サイエンス』に発表した論文で使ったのが最初です。
アメリカやカナダを中心に精神疾患領域の治療として応用され始めました。現在ではさまざな医療分野に応用され、世界中の大学や医療機関で研究・実践されています。日本でもその影響を受けた医師たちが各地で研究・実践を行っていますが、新しい分野で十分なエビデンスがそろっていなく、まだまだ医学的認知度が低くいのが現状です。西洋医学を専門的に学んだ方には、オーソモレキュラーやサプリメント服用の発想を異端視する方はまだまだ多いです。しかしオーソモレキュラー療法も西洋医学がベースで、使っている理論は同じです。アプローチの仕方が違うだけです。
どのように調べるのか
血液検査や尿検査・便検査・毛髪検査・唾液検査などで、通常の健康診断では調べないような項目を初診の段階で調べます。私が受けたオーソモレキュラーのグループ医院でも、基本的な検査で80項目以上、それに個々人の既往歴などをもとに検査項目を加減していました。検査そのものは苦痛を伴うものではないです。
検査は基本的に自費で、一部保険適応させるという形を取っているクリニックが多いと思います。自費診療になるので料金はばらつきがあると思いますが、たぶん初診で最安値で3万円弱あたりからでしょう。
オーソモレキュラーの治療と注意点
基本的にサプリメントを服用するか、一部点滴を行うかです。サプリメントはそのグループで販売されているのを一番安全ですが、安くするためにアメリカの安心できるサイトで購入する方や、それを勧めるクリニックもあります。
注意点のひとつは自己判断で大量に服用するようなことをしないことです。特に基礎疾患がある方は悪化する可能性が高くなるので自己判断で行わないことです。消化吸収の段階で問題が出る場合と、吸収されてから代謝する段階で問題が出る場合とがあります。特に後者は肝臓や腎臓に負担になることも多々あるので、定期的な検査は必要です。人によっては飲み始めの段階で薬疹がでることもあるので、かならず医師の指導下で行ってください。
注意点のもうひとつは、ビタミンやミネラルの最適量は個々人によってさまざまであることです。ビタミンやミネラルが不足量が検査でわかっても、個々の栄養素の消化吸収・代謝がどこまで可能かは個々人によって、あるいはそのときどきによって違います。その最適解は「やってみないとわからない」です。かといって、やみくもに大量に摂取しても上記のような問題が生じることがあるので、医療機関での定期的な検査が必要です。
オーソモレキュラー療法と鍼灸
身体は食べ物の栄養成分からできています。その栄養成分は鍼灸では補えません。そこで食事の改善やサプリメントを取ることになるのですが、人によっては、特に10代20代の若い人は反応がよくて、困っている症状が改善することも多々経験しています。
私の息子は中高生の頃に起立性障害であまり学校行けなかったのですが、病院で出される対処療法的な薬を飲んでもあまり改善しなかったのに、オーソモレキュラーの検査を受けてサプリメント療法を2~3か月行うだけで、症状がほとんどなくなってしまいました。
当院に来られる方でも、このような症例がたくさんあります。ですから当院に来院されても、栄養に問題があると思われる方には、オーソモレキュラーを実践されているクリニックでの検査・治療をお勧めしています。
オーソモレキュラー用の検査をし、補充すべき量のサプリメントを服用しても、服用当初は十分な反応が出にくい場合があります。これは消化吸収経路や対処の経路で問題がある方で、そのような方は鍼灸を併用した方が改善がスムーズに行くことが多いです。
オーソモレキュラー療法と漢方
上に述べたように、不足している栄養素は食事などで取るしかないのですが、サプリメントの代わりに漢方ではどうか?という疑問を持たれる方も多いと思います。たしかに漢方も何らかの栄養成分を補って効果を上げる治療法なのですが、現代医学が成立する遙か昔にできた理論体系なので、不足している栄養素を意識的に補っているわけではありません。
とはいうものの結果的にさまざまな疾患に効くという点があることは否めませんが、オーソモレキュラーを漢方の体系に取り入れるか、併用という形にした方が、効果が出るまでの時間を短縮できるのではという予測はできます。