燥季の治療(秋から冬にかけての鍼灸治療講義ノート)

この記事は中華伝承医学の入門者向けに行った、燥季治療の講義の概論部分です。詳しい診察法や治療法は書いていません。

この時期に発生する症状、たとえば腰痛・寝違い・下痢・下肢のだるさ・むくみ・呼吸が浅くて深い呼吸ができない・のぼせる・頭痛・疲れ目で乾燥する・肩が凝る・めまいがする、といったものがあります。その原因が燥季に相応する体調である場合には、燥季の治療を加味しないと、治りにくかったりします。いろいろな視点から複合的に診ていってはじめて未病の治療や本治ができるようになるということです。

燥季と二十四節季(2023年)

湿季  8月23日~10月23日(処暑・白露・秋分・寒露)
燥季 10月24日~12月21日(霜降・立冬・小雪・大雪)
寒季 12月22日~2月18日(冬至・小寒・大寒・立春)

自然界の燥季のイメージ

燥季は二十四節気の霜降、秋の終わりから冬至のころまでです。霜降の前の節気が湿季の終わりの寒露で、このときは草木に冷たい露が降りはじめる頃です。霜降は朝晩の冷え込みがさらに増し、北国や里山では霜が降りはじめます。燥季から寒季にかけて気温がどんどん下がるわけですが、気温が下がると大気に含まれる水蒸気量も減る、つまり空気が乾燥していくのがこの季節の重要点です。

燥季は落葉樹の実が熟していき種が完成する季節です。湿季のように実に水分が多いと種が腐りますから、栄養分が実から種に移って実そのものが熟していき、種が落ちたときの越冬の準備をします。種が越冬して春になったら芽が出るようするには、今の季節に実を熟して栄養分を十分に種の方に移す必要があります。種に水分が多すぎると冬の間に凍って越冬できなくなってしまいます。乾燥状態で越冬させ、春になって雪が溶けると水分を吸収して発芽できるようにします。草木の葉は紅葉して枯れていきます。

燥季の前半は熟し終わらせる方向に向かうので、水分を湿季のようにたくさん吸い上げて実の方へやると腐ってしまうので、水分供給が減っていきます。葉の水分も暑季や湿季と比べて減っていき、乾燥して紅葉します。そうなることによって実が熟します。りんごも柿も濃く色づきます。糖度が上がっていく状態にするわけです。

燥季の後半は実が熟すのが終わって栄養分を種を方に移行させてで越冬に備えるわけです。

葉っぱが枯れる、実は熟す、木の幹はほそぼそと疎通している、根には少し水をためておくというのが、落葉樹の燥季の理想的なありかたです。冷え込みがきつくなりすぎて固摂してしまうのはよくなく、少し湿を持っているのがいい。種が乾燥しすぎるとだめになるので土が乾燥して硬いのは良くないのです。

燥季の身体のイメージと脉状

人の体は自然界と呼応することを考えると、気温が低くなって暑季や湿季のように飽和水蒸気量が多くないので汗などで水分を皮膚から出す量は減ります。寒邪から身を守るために皮膚の血管が収縮して血液量が減少するので、表皮の腠理は閉じて皮膚から汗として体内の水分が蒸発する量も減少します。脉の表面がしだいに渋になって、太さもしだいに細くなるのはこれの反映だからです。

燥季の前半は昼間がまだ暖かいこともあるので、燥熱になりやすい。湿季の熱が体に残っている人は特に燥熱になりやすい。中医弁証的には陰虚になっていくという場合です。

燥季の後半はかなり気温が下がるので燥涼になりやすい。特に冷え性で乾燥肌の人は燥涼になりやすい。

胃の気を表す脉の深さは少し沈み気味になります。五運の脉は食欲の秋で栄養を濃縮して溜め込むので深位は少ししっかりした滑気味で、寒季みたいに細くなってはいけない。

木の葉っぱに相当するのは肺や心で、幹や根は肝脾腎にあたりますが、肺や心はなるべく枯らす、少し水に濡れていたら気化する、肝脾腎の湿はあまり気化せず少し貯めておくというのが燥季の治療の基本的発想になる。鍼数は渋脉が強くなるにつれて、鍼は細くて本数を少なくする必要がある。

燥季の病理

燥季は汗をかかなくなり、血のめぐりが低下していくので、水分をとりすぎると痰飲が生じやすくなります。しかし栄養分は吸収したい、となると、回腸から栄養分を吸収するのを促進させ、空腸から水分を吸収するのを減らしたい。膵臓から消化液をたくさん出して栄養素を効率よく吸収できる状態にしたい。脾臓で老化した赤血球を破壊し、除去することで臓器への栄養動脈血の質を高めるなどが基本になります。

痰飲がたまって腸の動きが悪くなると、痰湿由来の腰痛・寝違い・下痢・下肢のだるさ・むくみなどの症状が出ます。

大気の温度が下がって冷え感を感じるくらいになると、寒邪が肩背部から侵入するのを防ぐために逆気しやすくなります。そのために肺の粛降不足と腎の不納気になりやすい。呼吸が浅くて深い呼吸ができない、のぼせる、肩や首が凝る、頭痛がするなどの症状が出ます。腸管から吸い上げた栄養成分は門脈を介して肝臓の方へ送られるのですが、右の陽経を補したりする疎通したりすると逆気が悪化します。それに対しては対処療法的には右の陽経を瀉すか左の陰経を補すという戦略になります。

大気の乾燥に身体が呼応して身体の乾燥が過ぎると肝の血虚証の症状が出ます。肝の血虚証は肝臓へ栄養動脈血が十分に送られなくてなります。そのために左側に゙症状が出やすいで。疲れ目で乾燥する・肩が凝る・めまいがするなどですね。このときに左の陽経・陰経を瀉したりすると悪化しやすいです。左陽経や陰経を操作します。

※詳しい診察法や治療法を知りたい方は中華伝承医学会の勉強会にご参加いただくか、私の方までご連絡ください。

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