寒季(厳冬期)の治療(その2)

寒季の治療について、講義ノートをもとに概要を書きましたが、治療法については書きませんでした。

基本的には寒邪から身を守るために体表(腠理)を閉じ、冷えで循環が悪くならないように気血を深いところで巡らせるというものでした。

中華伝承医学においては門外と門内の下工・中工・上工という治療のレベルがあります。

門外というのは、諸流派の伝統外、伝統医学的な身体観や病理観にもとづいて、どういう理想的な体調に持って行ったらいいかを前提にすることがないような治療です。たとえば症状に対して対処療法的にアプローチするとか、冷えているから、気血の状態を考慮することなく暖めるとかっていいうやり方です。

門内というのは伝統流派の諸流儀にのっとった治療法ということです。これには下工・中工・上工があります。工というのはここでは医者・治療家ととらえればいいしょう。

下工の治療

初歩的な技術しか持っていない医家は門外の人のように対処療法的な経験穴を主に使いますが、伝統医学の身体観・病理観にもとづく配穴を行える点が違います。伝統諸派の経験穴があるので、対処療法的に使っても流儀の理想的な身体観に近づかせる配穴法になっているのがポイントです。いくつもの経験穴の中からもっとも良いと思われるものを流儀の診察法にもとづいて選択します。

中工の治療

『傷寒論』にもとづく治療です。漢方では『傷寒論』が最重要古典としてあてがわれ、広く行われています。とはいうものの、伝統諸派の『傷寒論』の使い方と、そうでない流儀の使い方では、身体観・病理観を踏まえた上で使っているかどうかの違いがあります。たとえば日本の江戸期の漢方家は中国の陰陽五行説を捨て去りました。そのために『傷寒論』に記載されている諸々の処方の関係性が、病理・診察法とどういう関連しているのかが分からなくなってしまい、対処療法的な発想で治療することになりました。

中華伝承医学では『傷寒論』の背景にある治療理論を、伝承医学の身体観・病理観の中に組み込んで治療します。『傷寒論』は文字どうり傷寒に関する処方集です。『傷寒論』の三陰三陽は六淫・正気の六気・六季と深い関係があります。

上工の治療

上工の治療は腎精と命門(腎陽と腎陰)を念頭に置きながら『傷寒論』や、気血を身体の六合(東西南北天地)と関係させて治療を組み立てます。腎陽と腎陰は命の源であり、六季の病も傷寒病も腎精や腎陰の虚損がベースにあるからです。本来の意味での本治法になります。このような治療をするのは技術的になかなか難しいです。また、定期的に通っていていただいていてお体をかなり深くまで把握できている患者さんにしかできません。かなり高等テクニックを要する治療です。

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