先日書いた「治らない治療~話したくない患者さん・聞き出したい治療者~」の記事がけっこう読まれたようなので、シリーズ化してみようかと思います。
今回は「遅い夕食なんとかなりませんか?」です。
運動器の痛みの治療が長引く一例
運動器、ここでは首・肩・腰・膝なんかのことだと思ってください。そういうところが「痛くなったので整形外科に行ったんですけれどもなかなか治らないんです。」という方がよく来られます。肩や腰、大腿の筋肉の凝り感が取れない場合も多いですね。一般的な鍼灸院の患者さんの多くはそういう方だとは思います。当院ではそういう方は早ければ1回、平均的に5回前後、ひどい場合は10前後ぐらいで症状がほとんど無くなります。しかし無くならない場合も2~3割あります。
どのような方が痛みが長引くかというと、まずは基礎疾患がある方。たとえば糖尿病であるとか自己免疫疾患であるとかですね。リウマチの人なんかは自己免疫疾患で関節破壊が進みますから、一時的に症状無くなることがあっても一回や数回の治療で関節の痛みが無くすことは難しい。あと、関節が極度に変形しているとか大きな手術をして身体のゆがみがきついとかまあそういうのも時間がかかることが多いです。まあそういった他のことに原因がある場合は長期にわたる治療が必要だったりします。
今回はそういう方じゃなくて、「病院でレントゲンやMRI・CT撮っても問題ないと言われたんですけど痛みが取れない」みたいな方のお話です。
その食事なんとかなりませんか?
「病院でレントゲンやMRI・CT撮っても問題ないと言われた」のになぜ痛みが取れないのか?まずそういう場合の痛みは筋筋膜性疼痛症候群といわれることが多いんですけれども、筋肉や神経の促通に食生活が大きく関わっているんです。食生活で症状が長引くのは大きく分けて二つの原因があります。ひとつは栄養に問題がある場合。もうひとつは食事の時間です。
栄養の問題というのはなにかの栄養素が足りてなかったり多すぎたりする問題です。もうひとつは食事の時間です。
栄養が足りてない?
たとえばおやつの食べ過ぎとかで糖質過多なら後からだがだるくなるとか眠たくなるとか、誰でも経験あるかと思います。そういった症状は糖質の処理に栄養を取られて筋肉や筋肉を動かす神経の促通が悪くなることが原因だったりするんですね。おやつをやめるだけで身体が軽くなったなんて経験は結構みなさん体験しているかと思います。糖質が過多になると、それを処理するのにビタミンやミネラルが使われるので、他で使う量が減って問題が生じたりします。何がどれだけ多いとか少ないかは栄養学的な検査をする必要があるので、これはと思う方には栄養療法(オーソモレキュラー)を取り入れているクリニックで検査をお勧めしています。結果を教えていただくと、みなさん結構ビタミンやミネラルが足りてないことがおおいです。でもサプリメントで補充するだけも症状緩和されることも多いんです。普通の医師はその体験があまりないと思いますが。
そうそう、高齢者で運動器疾患のある方、特に女性は栄養が足りてなくて運動器の痛みが続いている方がすごく多いです。軟骨や骨の変形だけじゃないです。
遅い夕食
「夜遅くにご飯を食べてた翌日の朝は食欲が無くなった」なんて体験は、ほとんどの人がお持ちかと思います。人によれば夜にお腹が気持ち悪くてぐっすり眠られなかったとか、朝に下痢をしたなんて人も多いでしょう。
下痢をするタイプはどちらかというと胃腸が弱い人で、食べたものが消化されずに外に出てしまうんですね。このような方は、食事量が少ないし夕食の時間や内容も気にする人が多いので、遅い時間に夕食を食べて調子が悪くなっても一過性で終わり、栄養が足りてなくて症状が悪化することがあっても、遅い夕食が運動器の凝りや痛みに影響を与えることは少ないです。影響を与えるのが多い人は胃腸が丈夫な人です。
胃腸が丈夫な人は遅い食事をしても自覚的には胃腸に不快感が少くなく、次の日の朝もしっかり食べられたりします。だから毎日同じような食生活をしがちです。しかしわれわれ中国医学専門家が診察すると、消化吸収はされているけれども、腸から吸収された栄養成分が、腸から肝臓に運ばれるルート(門脈循環)でつまったりとかリンパ管で詰まっていたり、十分に代謝されずに各所に運ばれて停滞していたりするのをよく見かけます。こういう状態を中国医学では食積といいます。食積には消化管で食べたものが停滞する場合と、吸収された栄養成分とそれを運ぶ血液が停滞する場合があります。中国医学では後者の状態を特に疏滞とよびます。前者は自覚されることが多いですけれども、後者は自覚されることが少ないです。運動器の痛みに強く関係するのは後者の方です。
経絡経筋の疏滞
骨格筋を中国医学では経筋や肌肉と分類し、それを動かす気が流れるルートを経絡とよんでいます。十分に代謝されていない栄養成分やそれを運ぶ血液が臓腑の外まで送られ、経絡や経筋で停滞ぎみになることを経絡経筋の疏滞といいます。整形外科的な画像診断ではさほど問題がないのに症状が長引くのは経絡経筋の疏滞が問題になっていることが多いのです。
経絡経筋の疏滞が一時的なものなら、疏滞している部分に直接鍼やお灸をしたり、指圧やマッサージなので手技療法をすれば疏滞が改善されるので症状が短期間でなくなることも多いです。でも夜遅い食事を毎日繰り返してたら、経絡経筋にまた疏滞が生じます。これが症状が長引く原因なんですね。
胃腸が丈夫なサラリーマンで夜遅くに帰ってきて食事をしてそのまま寝る人は、肩こりが続いている人が多いです。寝違いも起こしやすい。仕事が終わってからジムや習い事をして遅い目の食事を取るようなOLさんも症状が長引くことが多いです。
治療としては局所だけにアプローチしたり、経絡経筋だけを意識して遠隔取穴するだけの治療は効きが悪いです。一流の鍼灸師なら食積ということで胃腸の疏滞を除いてから経絡経筋の疏滞にアプローチします。それでもやはり夜遅い食事をしていたらまた疏滞します。
遅い食事なんとかなりませんか?
そこで「遅い食事なんとかなりませんか?」となるわけですけれども、頭では理解していただいても食生活を改善していただけないことが多いです。「それは変えられません」と改善を拒否される方もいます。そういう方に限って「鍼灸でもなかなか根本的に改善しないので様子を見ます」と脱落してしまうことがよくあります。残念ですが。