胃もたれ・胃の膨満感・胃痛~機能性ディスペプシアを鍼灸で~

目次

機能性ディスペプシアとは

胃潰瘍・十二指腸潰瘍や胃がんなどのような異常がないのに、胃の膨満感や胃痛・胃もたれ・胸焼け・げっぷなどの症状が継続的にある方がいらっしゃいます。病院で内視鏡検査などを行っても異常がみつからないので、以前はストレス性胃炎などと診断されていました。症状があるのにそれを説明できる異常が検査で見つからない場合に、胃の炎症があるなしにかかわらず「機能性ディスペプシア(functional dyspepsia, FD) 」と定義されるようになりました。functional は機能性、dyspepsiaとは胃弱とか消化不良とか訳される単語です。

機能性ディスペプシアの症状

主な症状としては「食後のもたれ感」「少し食べるだけでお腹一杯になる」「みぞおちのあたりの痛み」「胸焼け」や「吐き気、げっぷ」など非常に多彩です。中国医学ではのちに述べるように。これらの症状に対して、それぞれ別の原因を求めます。

機能性ディスペプシアの原因

胃には、食べ物をためて(適応性弛緩)て胃酸で消化し、十二指腸へ送り出す運動機能(胃排出能)という機能があります。

適応性弛緩とは食べ物が胃に入ったときに食道に近い部分が拡張して容量を増やし、よりたくさん食べられるように容積をふやすための弛緩反応です。機能性ディスペプシア患者さんの約40~50%がこの適応性弛緩反応障害だという研究があります。

胃排出能とは、胃の前庭部(十二指腸に近い部分)の収縮力によって胃に入ってきた食物を十二指腸に送り出す機能です。機能性ディスペプシアの患者さんの20~40%にこの胃排出能が低下が見られます(胃排出遅延)。

内蔵の知覚過敏
胃を含めた消化管には迷走神経が分布していて、消化管の運動や知覚・分泌などに対する重要な役割を担っています。

内臓知覚過敏とは言葉どおり、消化管の知覚が過敏になっている状態です。胃の運動や血管内圧の上昇などによる物理的刺激によって生じるものと、胃酸や食物などによる化学的刺激によって生じるものがあります。ストレスや過食・不規則な食生活、喫煙、過度なアルコールなどで物理的・化学的に胃に通常以上の変化を生じた場合に生じます。これはある意味胃の防衛反応と見ることもできるでしょう。またもともと体質的に神経質で知覚過敏になりやすい人は、その影響を感じやすいです。す。

手術の後遺症
あんがい見落とされがちですが、腹部の手術によって血液やリンパの流れが悪くなって起きる場合もあります。これは私の例ですが、鍼灸師になる前の20代前半に胃の部分切除術を二回しています。皮膚のみならず腹腔内の心窩部に常に不快感がありました。こういうのは鍼灸と手技療法の得意分野です。

症状


適応性弛緩が中心に異常が生じた場合、「少し食べるだけでお腹一杯になる(早期飽満感)」が出現しやすくなります。一方、胃排出能が異常を生じると、「食後のもたれ感」などが出現します。また知覚過敏によって、みぞおちの痛み(心窩部痛)やみぞおちの焼ける感じ(心窩部灼熱感)が起こります。

病院での機能性ディスペプシアの診断と治療法

内科の医師は症状だけで機能性ディスペプシアの診断を下すことはしません。最初に胃や周辺の臓器に炎症・ガン・ピロリ菌感染などの有無を確認するために、内視鏡検査や腹部超音波検査を行います。

治療法
病院での治療法としては薬物療法が中心になります。

  • ピロリ菌除菌
  • 酸分泌抑制薬:ネキシウム・タケキャブなどのプロトンポンプ阻害剤やガスターなどのH2ブロッカー
  • 消化管運動改善薬:アコファイド、ガスモチンなど
  • 漢方薬:補中益気湯・四君子湯・六君湯など
  • 抗うつ薬、抗不安薬

などがあります。抗うつ薬や抗不安薬が使われるのに疑問がある方もおありでしょうが、緊張をほどいたり弛緩状態なのを活性化させたりする効果を狙っての処方です。
酸分泌の抑制薬は速効性がありますけれども長期にわたって服用すると胃酸減少によって消化不良になり、なんらかの栄養素のが足りなくなることが生じ、別の症状が生じやすくなることもあります(私はこのタイプでした)。

機能性ディスペプシアの鍼灸治療

対処療法的な治療で改善することも多いですが、中華伝承医学の「胃の気の治療」を行うと、劇的に効果が出ることが多々あります。

鍼灸や漢方では、心窩部の寒熱や湿・緊張がないかどうかにまず着目します。
そして、それがどうして生じたのかを調べます。それは食生活であったり、運動不足であったり、根をつめることをして以内か等々です。体の状態が脈・皮膚・舌・全身の筋肉などに反応として生じるので細かな診察能力が必要です。

当院ではどんな治療であってもカゼの有無と二便(排便・排尿)の状態を調べ対処します。これだけで寒熱がほど良い状態になることも多いです。

さらに口伝で少数の人間に伝えられてきた、胃の気の脉診法からまずはじめます。これは内臓の動きや状態・バランスを診るための脉診法です。

たとえば工場で流れ作業を立ち仕事している場合、床がコンクリートだと下半身が冷えます。立って流れ作業は上半身をつかうので上に熱がたまります。そうすると食べたものが腸に流れにくくなる、みぞおちあたりが突き上げてげっぷや胸焼けが生じるなどの症状が生じやすくなります。こういうときには上の熱を下に持っていき、下の冷えを上に持っていって上下のバランスを取るわけです。そうすると症状が改善されるということになります。

胃の気の脉診法では鍼を一本打つごとに脈を見直し、一本の操作でどこがどう変化したか確認しつつ、次の鍼を刺します。かなり繊細で高度な臨床力がためされる方法です。中華伝承医学に伝わる胃の気の治療はハイレベルな治療法です。これは知っている人から口伝で教えてもらうしか学べません。

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